椎名林檎と、共に大人になっていく
椎名林檎の「歌舞伎町の女王」を買った当時、なんだか、とんでもなく変なものを聞いてしまったような感覚があった。 気が付けば、それから数年、椎名林檎のインタビュー記事が載っている本を買ってみたり、CDが出るたびに、買ってみたり、彼女に陶酔している時期が、確かにあった。
きわきわの感情や、絶望感の中にある変な気持ち良さ。あの「音楽」の中に、自分がきちんと感じきれなかった感情があったから、聞いていて気持ちが良かったのだと思う。
心が未熟な時期は、誰でも経験する。
最近では、昔より少々大人になり、感情に振り回されることも少なくなってきた。感情的になっている女の子を見て「まあ、そういう時期もあるよね」と生暖かい目で見るくらいのことは、できるようになった。
何かで、椎名林檎は、もう自分では歌いたくなくて、プロデュースに専念したい、みたいな記事を読んだ。それを読んだ時、なんとなく納得をした。大人になって、自分についての欲が少なくなったとき、人は、人のために動きたくなる。
椎名林檎と、共に大人になっていく感覚に、少しにんまりとしながら、彼女が過去に感じてきたものを、また聞き返してみたりする。
もう、必死に追いかけることもなくなったけれど、彼女の作った音楽を、好きだと感じたあの心の揺らぎ。あの感じが、今もわたしにとっての、大切な宝物だ。